糖尿病にかかると、目が悪くなる場合があることは広く知られています。

糖尿病性網膜症とよばれ、現在では緑内障に次ぐ失明原因になっています。

自覚症状がほとんどなく、気がついた時には糖尿病性網膜症も糖尿病も進んだ状態です。

視力の大きな障害は、日常生活で大きなマイナスとなり、老後の人生や感情的にも悪影響をおよぼすものですので、気をつけたい病気です。

 

糖尿病性網膜症とは

 

糖尿病性網膜症は、糖尿病の3大合併症の一つです。

昔は糖尿病性網膜症での失明者は少なかったのですが、近年の糖尿病患者の増加によって増えています。

糖尿病は生まれつきである1型と、生活習慣病である2型があります。1型の患者は子供の頃から糖尿病とわかっており、厳しい自己管理がされていますので、別な病気ともいえます。

ここでは糖尿病は生活習慣病である2型を指すことにします。

2型の糖尿病は、発症や発見までに時間がかかり、その時点である程度進行しています。

たいていは糖尿病の状態が4~5年続くと発病したことがわかり、そこから3~4年で悪化します。

その前後から糖尿病性網膜症があらわれます。

現在では糖尿病性網膜症の患者のうち、約15%の方が失明するとされています。

減少傾向にありますが、これは糖尿病の管理が進んだためでしょう。

 

糖尿病性網膜症の進行について

 

目の眼球そのものは硝子体という透明な袋状の組織です。

その後ろ側は、見たものを感知する網膜とよばれる膜で包まれています。

網膜には、網膜血管という細い血管によって、栄養や酸素が送られており、その血管におこる障害が糖尿病性網膜症です。

糖尿病でおこされる病気の多くは、血管障害によるものです。

血管の老化が早く進んだ状態ともいわれます。

ですがこの血管障害がなぜおこるのかは、わかっていません。

タバコや高コレステロールによる場合は太い血管に障害が出やすいのですが、糖尿病の場合は細い毛細血管に障害が出やすい特徴があります。

これは血液中にある大量の糖分が、タンパク質と結合して糖タンパク体を作り、これが細い血管の壁に作用しやすいためではとされています。

症状の進行程度で、単純糖尿病網膜症、前増殖糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症に分けられ、さらに進行した場合には合併症をおこし、失明を含む重度の視力障害をおこします。

 

単純糖尿病網膜症

最初に患者の眼におきる変化として、網膜上に赤い点のようなものがあらわれます。

これらは、網膜血管がつまったコブ(毛細血管瘤)や小さい出血(点状・斑状出血)です。

この状態が長く続くと、しみ状出血がおこります。

出血部分が徐々に広がり、赤くにじんだ様子です。

また血液がいきわたらなくなった網膜の小部分が白く濁ったり(軟性白斑)、傷ついた血管からタンパク質や脂肪がにじみ出てシミ(硬性白斑)をつくることもあります。

この症状は3年以上続きます。

糖尿病のコントロールがきちんとなされていれば、このまま一生をおえることも少なくありません。

視力の衰えや特別な自覚症状はないのが普通です。

 

前増殖糖尿病網膜症

単純糖尿病網膜症が進んだ状態です。

血管が詰まる(閉塞)状態があらわれます。

さらに網膜血管の複数の部分に、広範囲に閉塞すると、網膜に酸素が行き渡らなくなります。

すると新しい網膜血管(新生血管)を作ろうと準備を始めます。この頃には、眼がかすむといった症状があらわれることがあります。

糖尿病のコントロールだけではなく、レーザー光線による網膜光凝固術も検討されてきます。

 

増殖糖尿病網膜症

新生血管が増えていきます。

初期は網膜の視神経には関係のうすい部分に発生しますが、増えていくと徐々に視神経が集まる根本の部分(視神経乳頭)の方にまで表われます。

これは網膜血管の根本の部分にまで血管の閉塞がおこっている状態で、網膜全体のむくみもでてきます。

さらに網膜だけではなく、前方にある眼球の硝子体にまで血管が伸びていきます。

そして今までの新生血管がちぎられて出血しますと、硝子体内部に出血します。

この出血は吸収されずに残り、ゴミや黒い影のようなものが見えたり(飛蚊症)、出血量が多いと急な視力の低下もみられます。

ほとんどの方はこの時点で初めて症状に気が付きます。

新生血管の発生にともない、周辺には線維性の新しい組織も増えていきます、これらの増殖組織は光をさえぎるので、視力を悪化させる要因になります。

 

糖尿病性網膜症の合併症

 

進行を続けると最終的には合併症をおこし、重度の視力障害や失明の可能性があります。

 

黄斑病変

黄斑病変とは、糖尿病性網膜症の病変が、視力に関係の深い網膜の中心部(黄斑)に集中したために、網膜症の程度以上に視力が悪くなった状態です。

視野の中心に大きな暗い部分ができ、視界が大きくさえぎられます。

 

網膜剥離

網膜剥離は、糖尿病性網膜症の場合では、増殖糖尿網膜症にまで進行した時の増殖組織によって網膜が引っ張られ、その奥にある脈絡膜からはがされた状態です(牽引性網膜剥離)。

早く手術で元の状態に戻さないと、その部分の視力は失われます。

これが黄斑部であれば、失明します。

糖尿病性網膜症での失明原因の多くは、この網膜剥離です。

血管新生緑内障は、網膜血管のつまった範囲が広いと、眼球の圧力を調整している部分にまで新生血管があらわれることがあります。

するとこの部分に増殖組織があらわれ、眼球内の圧力が抜けなくなると、眼球はどんどんふくらみ、そして硬くなり、後ろにある網膜を傷つけることになります。

悪化すると、失明する可能性のあるものです。

視神経萎縮は、網膜血管だけではなく、視神経そのものに走る血管がつまった状態です。

失明の原因になりますが、たいていは糖尿病性網膜症が相当進行した場合に発症します。

他にも、白内障との合併が多いとされていますが、関連性ははっきりしません。

 

糖尿病性網膜症の症状は

 

初期症状は、ほとんどないのが普通です。

また、かゆみや痛みといった眼そのものの症状もありません。

黒くゴミが写る、視力が低下した、などの自覚症状が出た時点で、糖尿病性網膜症が進行した状態です。

 

糖尿病性網膜症の検査は

 

眼底の検査がなされます。

これは、暗い部屋で光を眼にあてて、医師が直接見る方法や、眼底カメラという装置で写真を撮影したりする方法です。

網膜の色や網膜血管の様子を診断できます。

この検査をする場合は、瞳孔とよばれる眼の絞りを開かせる薬(散瞳薬)を使う場合があり、検査後には、まぶしさを感じたり目がチカチカしたりします。

車の運転などする場合は注意しましょう。

蛍光眼底造影検査は、糖尿病性網膜症の患者には必須の検査です。

造影剤とよばれる血管が見えやすくする薬を使い、眼底カメラで網膜血管の写真を撮影します。

毛細血管瘤や出血部、血管がつまりやすくなっている部分など、細かい網膜血管の様子が詳しくわかります。

ただしこの造影剤で、気分が悪くなったりなどのショック反応をおこす人が少ないですがいますので、それを納得の上で検査を受けるようにしましょう。

すでに糖尿病性網膜症にかかっており、治療や観察のために必要だと医師がすすめるのであれば、受けるメリットのほうが高いでしょう。

視力検査や眼圧検査など、他の検査も症状や眼の状態を知るために大切です。

高齢者では、白内障や緑内障といった他の眼病の可能性もあります。

 

糖尿病性網膜症の診断は

 

似た病気として網膜静脈閉塞症があります。

高血圧が原因でおこる病気で、網膜血管が閉塞したり破裂して出血したりします。

糖尿病は高血圧をおこすことがあるために、糖尿病性網膜症から網膜静脈閉塞症を併発するケースも少なくありません。

白内障や緑内障など他の病気は、専門医が診察すれば間違えることはないでしょう。

糖尿病性網膜症を疑い受診する人の多くは、すでに糖尿病で他病院にかかっており、定期的に眼科を受診して検査してくださいと言われている方でしょう。

その場合はきちんと診察を欠かさないことが大切です。

 

糖尿病網膜症の治療は

 

この病気は、治療をおこなっても視力が回復することはありません。

あくまで進行をおさえるためのものです。

単純糖尿病網膜症のような初期段階であれば、糖尿病治療での血糖値コントロールができていれば進行をおさえることができます。

ただし、インスリン注射などを行うほどコントロールが難しい状態では、食事や注射タイミングなどを誤れば低血糖発作をおこす可能性があります。

これが進んだ糖尿病性網膜症には悪影響をおよぼすものですので、注意が必要です。

糖尿病が進行すると、高血圧もおこってきます。

これも網膜血管を痛める要因のひとつです.

その他の糖尿病の悪化にともなう合併症が糖尿病網膜症を悪化させる可能性がありますので、糖尿病の管理が絶対条件です。

 

網膜光凝固術

網膜光凝固術は、レーザー光線を病変部に照射する治療法です。

細いレーザー光線を当てた部分をやけどさせることで硬化させ、新生血管の増殖をおさえたり、減らしたり、血行やむくみを改善したりさまざまな効果が期待できます。

この治療は、障害がこれ以上進行することをおさえるもので、回復させるものではありません。

糖尿病性網膜症の悪化の程度によって、照射個所や回数が違ってきます。

病状の経過を観察しながら、複数回おこなうことになります。

病状によっては、進行をおさえ失明を防止することが期待できますが、糖尿病が悪化せずにコントロールすることが必要です。

 

硝子体手術

硝子体手術とは、網膜光凝固術でも進行がおさえられない場合や、かなり進行して網膜剥離をおこしている場合におこなわれます。

増殖組織の除去や網膜のひきつれを戻したり、さまざまなことが可能です。

この手術は、眼球に直接小さい穴を数カ所あけ、そこなら管状の機械を入れ、顕微鏡でのぞきながらおこなうもので、技術的にも高度な手術です。

 

おわりに

 

糖尿病性網膜症は失明の可能性がある怖い病気ですが、あくまで糖尿病の合併症です。

糖尿病治療での血糖値コントロールがきちんとなされ、眼科での定期的な管理がされれば、悪化せずに済む可能性が大きいです。

失明や視力障害の危険性、一生涯にわたる病気の管理が必要なことを考えると、とにかく生活習慣病である糖尿病にならないように、食事や運動などの健康的な生活をおくるように普段から気をつけるべきでしょう。

また高齢になると、他の眼病の可能性も増えてきます。

問題がなければ頻繁である必要はありませんが、定期的に眼科を受診してはどうでしょうか。